投球力学について
投球時にかかるさまざまな物理的な力について説明します。
注意する点として、これが分かったからといって投球動作に直接活かせるものではないということです。
投球動作を変えるのはイメージです。
運動動作は、動画や画像などを見たり、頭でイメージしたり、実際に身体を動かして感じ取るしか改善方法がありません。
理論や力学を覚えたからといって、安易に投球に結びつけようとすると痛い目にあいます。
たとえば、腕の動きをスロー解析すると、直線的ではなく、回旋しながらしなって出てくることが分かります。
そのことが分かったからといって、腕を捻って投げようとすると、おかしなことになるのです。
腕が捻られるのは、さまざまな身体の動きや力の合成の結果であって、最終的な結果、出力であり、表面上そう見えるだけなのです。
結果だけをみて、形だけ真似てはいけないということです。
ただ、理論や力学は、何が間違っていて何を信じればよいか、という情報の取捨選択をするのには役立ちます。
嘘や間違いにだまされないために、よりよい練習法や理想を追求するためには、投球力学の理解は必要なのです。
30代になっても伸びる選手というのは例外なく、理論面の理解にも長けています。
才能という偶然に任せていると、あらぬところで足をすくわれる可能性が高いからです。
重力
投球に限らず、すべての運動において最も重要な力です。
地球が真ん中に向かってモノを引っ張る力ですね。地面に引っ張る力です。
動物の身体は重力に逆らって動こうとする、まさにそのために進化してきました。
人間ももちろん例外ではありません。
運動センスというのは筋伸張反射と重力のさばき方でほとんど決まります。
筋伸張反射自体も重力を使って引き起こすことが多いです。ジャンプの前のしゃがみや、反復横とびなどの動きがそれです。
たとえば、転ぶという現象について考えて見ます。
転ぶというのは、重力をうまく受け止められないことで発生します。
センスがある人は、動きの中でぎりぎりのところまで身体を倒したりしますが、なかなか転びません。
重力と遠心力が拮抗する角度、それを受け止める摩擦力の限界を熟知しているレーサー
このように、人が地球上で行うすべての動作には必ず「重力」を前提として行う必要があり、
重力とうまく付き合えないと「バランスを崩す」こととなり、効率的な動作やりにくくなります。
重力にスムーズに対応できている動きを「軸がある」「安定している」などと表現することがあります。
(※「回転軸」のことも軸といいますが、これはまた別物です。同時に生じることもあります。)
重力に折り合いをつけるための姿勢や動きは人により異なり、縦方向、横方向に対するバランスのとり方がそれぞれ数種類あるらしいということがわかってきています。
廣戸 聡一さんの「レッシュ理論(4スタンス理論)」
野球に限らずスポーツをやっている方は是非みておくことをおすすめします。
ここまで重力について書いてきましたが、実は投球動作では重力を積極的に活かす瞬間はあまりありません。
腕を上から振り下ろすオーバースローは球威があるとか、そういうイメージのせいで、重力を使っていると勘違いされますが、
球の速さを生み出すのは、99%身体のしなりであり、重力ではありません。
重力を積極的に活かすことはありませんが、重力に邪魔されない注意は必要となります。
慣性の力
慣性の法則とは、一旦動いた物体が力を受けたそのままの方向に動き続けようとする力のことです。
カーブをコーナリングする際には、運動の向きが常に変化しているため、
物体が外側に飛び出るように動きます。この見た目の力は「遠心力」といわれます。
カーブを曲がるときに減速するのは、スピードが速いと遠心力で曲がりきれないからということはみなさんご存知だと思います。
投球では、腕に強い遠心力が働きます。
腕を振ると、腕が外側に引っ張られます。
右投手なら右方向です。
なので、身体側は無意識にやや左に傾いて右側に倒れないようにバランスをとっているのです。
投球においては、全身が前に動く力(並進)のエネルギーと、
上半身の捻りエネルギーにより、腕が前方に伸び、ボールが前方に飛び出していきます。
摩擦力
摩擦力は、滑らずに固定する力のことです。
投球動作では、足の裏と地面との間で摩擦力が働きます。
また、リリース時にボールと指の間でも摩擦力が働きます。
縫い目のすり減ったつるつるのボールでは摩擦力が働かずに球が抜けたり遅くなりますし、
スケート場のような氷の上では踏ん張れないので、まともに投球することはできません。
地味な力ですが、球にしっかりと力を伝えるためには重要なのです。